第58回鎌倉薪能 演目解説 中司由起子氏の文を引用しています。


狂言 昆布売(こぶうり)
 
「大名が外出しようとしますが、家来をみな遣いに出してしまったので、

今日は太刀を持って供をしてくれる者がいません。そこで大名は道すがら

、太刀持ちにふさわしい者がいないか、待ち伏せをしていました。

すると若狭小浜の昆布売りが通りかかります。大名は昆布売りを脅して

太刀を持たせますが、無理やりに従者扱いをされた昆布売りは反撃に

出ます・・・。

『昆布召せ、昆布召せ、お昆布召せ、若狭の小浜の召しの昆布・・・』の

売り声を、中世から近世初めに流行っていた踊り節や謡節などで歌い分ける

場面が見どころ。」


 葵上 (あおいのうえ)

「光源氏の正妻、葵上が物怪にとり憑かれ、病床に伏しています。

そこで院の臣下(ワキツレ)が照日という梓巫女(ツレ)を呼び出し、照日は

物怪の正体をさぐるために梓の呪法をおこないます。

照日が呪文を唱えると、高貴なたたずまいの女(前シテ)が破れ車に乗って

現れます。女は六条御息所の怨霊と名乗り、恨みを晴らすために現れたと

告げ、源氏への尽きせぬ愛を吐露。葵上への嫉妬と恨みをあらわにして

枕元に立ち寄ると、葵上を打ち据え、激しい怒りをぶつけます。

ついには葵上を破れ車に乗せて、あの世へ連れ去ろうとしました。

すると葵上の容態が急変。臣下は従者(アイ)に比叡山へ横川の小聖(ワキ)

を呼びに行かせます。やがて小聖が祈祷を始めると、悪鬼の姿となった

御息所(後シテ)が出現、小聖と争います。しかし小聖が不動明王に祈ると、

怨霊は心を和らげ、成仏の身となったのでした。

能〈葵上〉は美しく高貴な女性の激しい嫉妬の思いが主題です。

素材は、『源氏物語』葵巻の、御息所の生霊が出産を控えた葵上の命を

奪う話。しかし能独自の登場人物や展開があります。

まず登場人物では曲名になっている葵上は登場せず、代わりに舞台の

正面先に一枚の小袖で表されます。また梓巫女や横川の小聖は『源氏物語』

には登場しません。最も大きな違いは、結末です。

『源氏物語』の御息所は生霊の設定ですが、能の謡では御息所が成仏したと

あり、御息所を死霊のイメージで捉えています。

一方で物語の世界をふまえた設定もあります。御息所が葵上への恨みを募ら

せる契機となったのは、車争いの事件(源氏の登場する葵祭の行列を見物して

いる御息所の牛車を葵上の従者たちが破壊した)です。これをふまえて、

御息所の登場の謡には『車』の語が頻出します。

また『花宴・蓬生・朝顔』など、『源氏物語』の巻名が謡に読み込まれ、

王朝物語の雰囲気を醸し出します。

御息所が葵上の枕元で恨みを爆発させる場面は『枕ノ段』と呼ばれ、

『沢辺の蛍・光君・蓬生・葉末の露・夢・真澄鏡・面影』など、『源氏物語』

ゆかりの言葉や儚さを意味する美しい言葉が散りばめられています。

御息所の気品と激情という、相反する心理状態が最も強く現れた場面

です。謡や囃子のテンポがあがり、シテも視線や扇を使ってさまざまな

型を見せます。御息所が葵上を車に乗せて連れ去ろうとする様子は、上に

着ていた衣を用いる印象的な演技で表現します。」



※撮影者から

二日目の8日は、午前中雨が降っておりまして、正午に協会発表があり

開催が決定しました。昼過ぎからは雨も上がり、雨天の問題はなくなり

ましたが、開演頃より、舞台に向かって風が吹き、葵上を表す舞台、

正面先の一枚の小袖が風で飛ばされぬよう、枕のようなものを上に置き、

抑えをしたので、7日の小袖の状態と違っているのはその理由からです。

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